ページ

2008年12月27日土曜日

出版不況について思うこと

 今月はせめて投稿記事本数を四十本にしておきたいので、残り五日ですがちょっとスパートをかけていきたいと思います。

 さていきなりですが、「180円」と言われて一体何の価格かすぐにピンと来る方はいるでしょうか。実はこの価格、私が子供だった頃のマンガ雑誌「少年ジャンプ」一冊の値段です。ちょっとウィキペディアで調べてみるとこの値段は1989年頃の価格との事で、恐らくこのくらいの頃に私は初めてジャンプを買ったのだからこの値段をしつこく覚えていたのだと思います。
 それに対し、現在のジャンプの値段はというと実際に店頭で確認していないのですが同様にウィキペディアの記事を読むとなんと「240円」との事で、実にこの十数年で三分の四倍も値上げされていることになります。

 それを言い出すと1970年の発売当初は90円なのでこうした値上げも時代の変遷によるもの、といえば集英社を初めとした出版社は簡単かもしれませんが、私はこの値上げに対して率直に強く疑問を覚えます。というのも70年代から80年代の間は日本が高度経済成長期にあり、また90年度初頭も消費税の導入があったのでこの間に徐々に値段が上げられていったというのは理解できるのですが、90年代の後半は失われた十年の間ともあり、この時代を象徴する経済現象のデフレの影響を受けて様々な物の物価がどんどん下がっていった時代でありました。いくつか例を上げますと、90年代中盤まで三十万円はくだらなかったパソコンの値段は2000年に入る頃には十万円前後にまで下がり、飲食店もさすがに今は落ち着いてきましたが一時期はマクドナルドや牛問屋の値下げ競争が進んで大幅に下がっていました。

 そんな中、私が身の回りで購入する物の中で唯一一貫して値段が上がっていったものというのが先ほどの少年ジャンプも含むマンガ雑誌を初めとする書籍です。
 実際にどれくらい上がっているのかと、ちょっとあまりこういったデータを普段は取り扱わずやや苦手なのですが、国の統計局(社会学をやってたら知ってなければいけない機関)のホームページから年別の消費者物価指数のデータを出して見てみたのですが、正直驚きを通り越して呆れました。この消費者物価指数というのは、「家計を基準に、その商品やサービスを購入するのに必要な支出の割合」を商品ごとにまとめたデータで、簡単に言えばそのモノの物価がどれだけ上がっているのかを調べるデータのことです。

 結果から言わせてもらうと、やはり書籍の物価指数データは異常な数値をはじき出しています。文房具や建築ブロックなどはそれこそほとんど変動がないのですが、家電なんかは見ていて気の毒になるくらい物価が落ちており、その他もやはり生活物資などはどれも低下しています。しかしこれが書籍になると話は違い、少年雑誌で見ると91年の消費者物価指数90.5に対して07年度は99.6と、10%程度も上昇しており、更に書籍全体で見ると91年の69.7に対し07年度は101.8と、なおも上昇を続けている傾向にあります。

 日本では出版不況といわれ始めて既に久しくあります。大体95年くらいから「本が売れなくなってきた」という話がちらほら聞こえるようになってきて、それが現在にまで続いているのでは既に十年以上も言われ続けていることになります。そんな状況なもんだから、「ハリーポッターシリーズ」が出た際には「出版会の救世主」とまで言われたのですが、結果から言えば「ハリポタブーム」の後には何も続きませんでした。

 さてここでクエスチョンです。本が売れないにもかかわらず、何故出版会社は値段を上げていったのでしょうか。出版関係の会社にいる人間とよく会っているうちの親父に言わすと、「本が売れないから利益が出ず、それで仕方なく上げているらしい」と返ってきたのですが、私に言わせると実態は逆で、値段を上げているから本が売れてないんじゃないかという気がします。
 そりゃ高度経済成長期のインフレ真っ只中なら上がっていくのも自然ですが、なんでもってデフレ下で消費者物価指数にもはっきり表れるくらいに値段が上げられていったのかとなると明らかに不自然です。特に少年ジャンプを初めとする少年マンガ雑誌に至っては、毎月の少ない小遣いで購入してくれる小中学生がメイン購読者層なのに値段をこれほどまでに上げていくのは常軌を逸しているのではないかとすら思います。ついでに書くと、単行本のジャンプコミックスもこの前私が買った「クレイモア」の十五巻は420円でした。これも私が小学生の頃はダイの大冒険とか390円だったのに。

07年の一人当たりGDP、日本19位 G7で最下位(NIKKEI NET)

 リンクに貼ったニュースに書かれてあるように、かつてはルクセンブルクに次いで二位であった日本の一人当たりGDPは現在、見るも無残なまでに低下の一途を辿っています。それほどまでに個人の収入が先細っている中で何故出版会社はこれほどの値上げを行ってきたのか、言い方は悪いですが馬鹿なんじゃないかとすら思います。出版不況とかなんとか抜かしては被害者ヅラしていますが、コスト削減などの経営努力を真面目にやってきた姿を私は見たことがないですし、挙句の果てには一部の出版社なんか「最近の日本人は知的好奇心が少なくなってきた」と、暗に日本人の知性が下がったことが原因だなどと言い出すのもいますが、それは体のいい責任逃れな発言にしか思えません。そういった知性の低下にどう立ち向かうのかが、出版社の一つの役割なんだし。

 おまけに、私はどうも最近の書籍は値段の割に中身が異常にくだらない本が多過ぎな気がします。ハードカバーの本を買おうものなら2000円近くは取られますがそのくせ中身はぺらぺらで、それならばまだ実際によく売れている新書の本の方が内容にも優れていることが多々あります。そんなわけで私がよく買うのは新書なのですが、この新書でも必ずしもいい本が手にとれるわけではなく、いい本だったときには素直にラッキーと思うしかありません。前に買った野球の新書なんて滅茶苦茶つまらなかったし……。
 マンガでも同様です。かつてジャンプの値段が200円だった頃に連載されていたマンガに対し、今対抗できる連載マンガはどれほどあるのか非常に疑問です。値段も高くなる一方で質は下がる一方、こんな悪循環で本なんて買う馬鹿いませんよ。

 何も書籍に限るわけではないのですが、最近の一部の商品やサービスに対してどうも値段に見合わないものが多くあるような気がします。その一方でこの前私が買った1TBのハードディスクなんて一万四千円で、「本当にこんな値段で買っていいものか」と、逆に不安になった値段もあります。後者はともかく前者に対しては、もう少し適正価格について調査なり検討なりをするべきだと思います。特に書籍は先ほども言った通りに国民全体の知性に関わる分野なのですから、もう少し使命感を持って企業努力もはっきり見えるくらいにやってもらいたいものです。

  参考サイト
総務省統計局

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

この「07年はユーロ高だったので欧州各国のGDPが膨らんだ」というのが、クセモノの気がしますね。夏の1ユーロ=170円で計算するか、12月上旬の1ユーロ=120円で計算するかによって一人当たりのGDPが30パーセントも変動するんですよね。個人的には、働いている時間からしても、平均のフランス人一人が日本人一人より多くの価値を作り出しているとは思えないんですよね。

花園祐 さんのコメント...

 さすが、実にご指摘の通り。
 これら一人当たりGDPはどこもドル換算で出すので通貨変動にものの見事に影響されてしまいます。多分円高な今だと日本が挽回する結果になると思います。

 ただこの一人当たりGDPは購買力平価こと、平均家計収入はどれくらいあるかというデータの指標としてはまだマシなもので、またかつて二位だった頃と比べると明確に落ちていることを強調したかったので引用しました。