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2009年2月7日土曜日

今、どんな経済学が求められているのか

 今朝の朝日新聞朝刊の文化欄に、「古典の思想家 再注目」という記事があり、いろいろと私も思うところがあるのでちょっと感想をここで述べます。
 まずこの記事で何が述べられているかですが、記事冒頭のリード文をそのまま抜き出すと、

「スミス、ケインズにハイエク、シュンペーター、ガルブレイス、近現代の経済学、経済思想の泰斗がこのところ引っ張りだこの様相を見せている。100年に一度ともいわれる世界的な経済危機、打開のヒントを、遠ざけられがちだった古典に求める機運が高まっている」

 この文に私も異論はありません。やっぱり去年から今年にかけてかつてのマルクス(サッカー選手じゃないよ)よろしく、近年の経済学ではほとんど研究対象とされなくなったケインズがまたちらほら出てくるようになり、彼の復権が急速に行われているような気がします。

 現在、日本のどこの大学でも経済学の授業で教えられる内容のはそのほとんどはミルトン・フリードマンの提唱した新自由主義であることに間違いありません。この新自由主義が何故これほどまで力を持つようになったかを簡単に説明すると、戦後にジョン・ケインズ(198センチの大男。)の提唱したケインズ経済が支配的だった70年代ごろ、日本やドイツといった敗戦国の経済がアメリカがイギリスといった戦勝国に追いつくようになり、もはやケインズのやり方では通用しないという具合で、歴史的にはイギリスのマーガレット・サッチャーが政策の中心に導入したことを初めに、徐々に世界で新自由主義が支配的になっていきました。
 特にアメリカではレーガン政権がフリードマンを政策顧問に置くほど傾倒し、事実アメリカもドル体制の下でこの経済政策で一時的に成功を収めたのですが、今回の金融危機によってそれが破綻し、やっぱりこんなやりかたじゃ駄目だったんだと現在は逆に総スカンが巻き起こっています。

 これなんか私もこの前までやっていた「失われた十年」の連載をしていて感じていたのですが、やっぱり何かに躓くことにより、社会というのはそれまで信奉していた概念とか理論に対して急激な反動を起こすところがあると思います。そもそも70年代に新自由主義が力を持った背景というのも、ケインズ経済学が通用しなくなってきたことに対してケインズ経済学と真逆である、生前のケインズと学説上で激しく対立していたハイエクの陣営の経済学であったことが原因だと思えてなりません。

 ここまで言えば察しがつくかもしれませんが、ケインズがなんでまた現代に復権しているのかというと、その最大の原因は新自由主義と真逆の学説だからではないかと私はにらんでおり、もし本当にそうであるのならば安易な転換は行われるべきではないかと思います。
 一気に結論を言いますが、新自由主義が今回の世界的不況で否定されたからといって、そのすべてを否定して真逆の学説を採ったところで、感情への気休めにはなっても何の問題の解決にもならないと思います。

 確かに今だからこそケインズ経済学の中から見直すべき説、採用すべき説というものもいろいろ見えてくるのは確かです。しかしケインズ経済学は必ずしも万能の経済学というわけでもなく、少なくとも公共投資による有効需要の創出には限界があるということは現代ではほぼ証明されており、フリードマンが駄目だったから何でもかんでもケインズへというのはあまりにも安直で、また自滅へと向かう道にもなりかねません。
 じゃあ一体どんな経済学を信じればいいかですが、やはり理想はこれまでの学説を個人個人が再び再読することに尽きると思います。それこそマルクスの資本論からケインズとハイエクの学説、今回批判されているフリードマンに彼と最も対立していた宇沢弘文先生の意見など、世の中のありとあらゆる経済学を勉強しなおして何が有効なのか、かつてない今の時代だからこそかつてない新たな知恵を出すことに尽きます。

 一番危険なのは、何度も言いますがフリードマンが駄目だったからまた元のケインズへと、思考を停止して二項対立的に選択をすることです。
 これは昔に聞いた話ですが、戦後の日本の官僚が優秀だったことについて、戦後教育では社会主義経済学と資本主義経済学が同時に東大などで教えられていたことから、双方の長所と短所を理解して相互に有効に組み立てられたからだという意見がありましたが、これなんかなかなか参考になる意見だと思えます。一つの学説にとらわれず、いろんな学説を見比べて何を政策に移すか、そうした総合的な知恵こそが今の時代に必要なんだと思います。

  追伸
 私の基本の行動パターンはアンチセントラリズムこと、反中央主義的にいろいろものを考えて行動します。需要のないところだからこそ自分が補填するとばかりに、経済学の学説とかでもブームの過ぎ去ったものとかを割合に勉強することが非常に多く、また今では誰も話題にすることがなくなった古い議論や学説なども、自分が伝承者になるのだと妙にいきがってこのところよく調べています。
 今回話題にした、というより朝日新聞の記事でコメントしている京大教授の間宮陽介氏の「ケインズとハイエク」という本を手に取ったのもそういった思惑からで、そもそもフリードマンの前身者たるハイエクというのは一体どういう人なんだろうとK先生に相談したことから紹介を受けました。

 そうは言うもののあんまり現代で話題にならないもの(それを言えば経済学自体が私の専攻ではない)を調べるもんだから、先ほどの「ケインズとハイエク」を読むのには非常に苦労しました。文章は日本語ですがハイエクの思想論のところなんて何度読んでも頭に入ってこず、二年前に一度読むのをあきらめて、先月からもう一度読み始めてようやく今日になってようやく読破できました。読み終えた感想として、苦労した分いろいろな新たな概念を得ることが出来ました。それとともに今回題材とした記事に間宮陽介氏や神野直彦氏など、まだ著作を読んだことのある学者がコメントしているのを見て、なんだかんだいってやってることが身についてきたなと思った日でした。

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