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2010年6月13日日曜日

日本がファシズムに至るまで

 昨日の記事で私は、ファシズムとコミュニズムは全体主義的傾向を持つのは共通するも、独裁を始める組織が権力を獲得するプロセスにおいて民主主義的過程があるかどうかに違いがあると述べました。この民主主義的過程を経ていることについてドイツのナチス党とイタリアのファシズム党については自明しされており、私も以前に「E・フロム 自由からの逃走について」の記事にて書いたように当時のドイツ国民は割と熱狂的にナチスを支持して押し上げたのは事実です。

 では日本は私の主張通りに民主主義的過程を経てファシズム化したのでしょうか。この点について現時点の一般的な日本人の見方は恐らく「NO」で、日本が最終的にファシズム化したのは間違いないにしてもそれは民主主義的過程を経ているのではなく、軍人や官僚といった元からの権力者が国民を置き去りにして暴走したからだという風に受け取られているように思えます。
 実際にWikipediaを覗くと「天皇制ファシズム」として一項目が設けられており、私の理解だとドイツやイタリアでは大衆が独裁政党を押し上げてファシスト化したのに対して日本ではそれらとやや趣が異なり、肯定派も否定派も天皇制という柱が重要な役割を果たしたと別扱いされています。

 先に私の結論を言うと、確かに天皇制の影響は多少はあったにしろ、当時の日本はドイツやイタリア同様に大衆が独裁党を押し上げ、いわば国民自らが日本を進んでファシスト化させたと見ております。

 まず当時の日本の状況から説明していきますが、アメリカより起こった大恐慌の影響を受けて当時の日本は国民全体で貧困者が溢れ、しかも折からの天災を受けて東北各地を中心に凶作が続き、東北地方を中心に農村では生活に困って娘を身売りする家や餓死者が後を絶たなかったようです。そんな最中、政治はどのようにそんな状況に対応していたのかというと、言ってて悲しくなりますが収賄や払い下げなどといった汚職が頻発していたそうなのです。

 大正デモクラシーを経て、日本でも成人男子であれば納税額に関係なく投票権を持つようになりましたが、皮肉な事にこの女性こそ除外されているものの普通選挙法が実施されるようになってから政治家の汚職が頻発するようになったのです。これは日本に限らず民主主義国家ではどこも同じ傾向があるらしく、投票権の幅が広がれば広がるほど政治家にとって政治というのは手段化し、腐敗化しやすくなるそうで、貧困者が増える中で私腹を肥やす政治家に憤りをもつ国民が数多くいたそうです。
 日本史をやればわかりますが、昭和前期というのは浜口雄幸首相を初めとして実に数多くの政治家が暗殺されております。それほどまでに政治家に対して国民は怒りを覚えると共に信頼を無くし、かわりに肩入れを始めたのが他でもなく陸軍を初めとした軍部でした。

 これはどの国でもそうですが基本的に軍隊というのは貧しい人間が入る事が多く、陸軍を初めとした軍人らは貧困者に強く同情しては遅々として進まぬ政治改革に政府批判を続けました。そうした声が実際に行動に移ったのがあの「二・二六事件」で、東北地方を主な出身とする軍人らは汚職に明け暮れる政治家らの政党政治を打倒した上で、軍人を中心とした政府を作り一挙に改革を行おうという目的の元でこの日本史上最大のクーデターは実行しました。
 結局二・二六事件は昭和天皇の強い怒りを受けた事から素早く鎮圧されましたが、クーデターは失敗したもののこの事件をきっかけとして政党政治家らは暗殺を強く意識するようになり、国民も政治家達よりも軍人たちの方が真面目に国のことを考えているのではと信頼するようになる人が増えて行きました。

 そうした世論を受けてか知らずか、その後の日本は軍族出身の人物が総理大臣に就任する事が多くなると共に軍の主張が大きく幅を聞かす様になります。また政府が軍縮政策を行おうものなら「米英の言いなりになる」という反対意見も国民から出るようになり、そうした声を受けて軍人らもますます増長して行きました。
 極め付けが、1940年に成立した大政翼賛会です。議会を事実上の軍部の追認機関としてしまうこの翼賛会に対し、国民はきちんと投票で持って翼賛会推薦議員を当選させ、議会へ送り込んでいます。言ってしまえば、投票で持ってこの翼賛会を否定する事も可能でしたが、当時の日本人はそうはしませんでした。

 確かに日本の場合、ドイツやイタリアと比べて軍部が軍部大臣現役武官制を盾に取る事で強く意見を主張できたこともあり、海外の評論家から、「日本はファシスト化する要因を始めからその政治構造内に持っていた」という指摘は当てはまると思います。しかしそれを推しても、当時の史料を見る限りだと日本人は率先して軍部を支持し、戦争も肯定していたようにしか私には見えません。それがいいことか悪い事かといえば当時の時代背景もあることからどっちかだと断言する事は出来ませんが、少なくとも一部の軍人らが国民を無理矢理巻き込んで無謀な戦争に突入したというのは間違いで、当時の国民もそれに一部加担していたというのが私の意見です。

  おまけ
 ナチス党の幹部がその主張に比べ個人資産を数多く抱えていたのに対し、日本の戦前の幹部(軍人)らは割合に清廉な人が多く、財産もほとんどなかったようです。

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