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2011年3月27日日曜日

日本人の自己裁量権

 今回の震災後に聞いたニュースですが、なんでも救援物資を積んだ自衛隊のヘリコプターが被災地に到着したものの着陸の安全確認が取れないために空中で待機していたところ、同じく救援物資を積んだ米軍のヘリがやってくるやさっさと着陸したそうです。もちろん無事に着陸し、空中で待機する自衛隊機を横目に救援物資の配布もすぐに始めたそうです。
 このニュースのコメント欄を見ていると、こういう緊急時におけるアメリカ人は頼りになる、合理的だ、U・S・A(゚∀゚)!などと賞賛する内容が多かったのですが、その中で私の目を引いたのは、「アメリカと日本では自己裁量権が全然違う」というコメントでした。

 以前に読んだどこかの評論で紹介されていたことですが、米軍内の規定というのは「やってはいけないこと」が書かれているのに対し、日本の自衛隊は「やっていいこと」しか書かれていないそうです。たとえば発砲についてもアバウトに書けば米軍では民間人や降伏した兵士に撃ってはならないと書かれているのに対し、自衛隊は相手がこちらを攻撃する意思があるかどうかを確認する、上官の命令や承認を受けている、中央に確認を取ったなどと、規定通りの細かい過程を経た上でなければ発砲できないらしいです。

 このような規定の違いについて私は米軍のような規定を「べからず法」、自衛隊のような規定を「べき法」と呼んで分けていますが、言うまでもなく「べき法」の方が規定の強さや厳しさが強く、制限も大きいです。そのため上記のヘリ着陸時の判断においても米軍ではパイロットなどが着陸可能と判断するやすぐに着陸出切るのに対し、自衛隊は恐らく関係各所に確認をする必要があって遅れてしまったのでしょう。
 旧軍の暴走の上に二次大戦を起こしてしまったという反省を経た上で発足した自衛隊の歴史を考えれば、このような「べき法」に準拠した組織になるというのはごく自然な成り行きだったでしょう。しかしこのような細かい規定についてイラク派遣時に現場からは自衛隊員自身が危険だとして、一部省略化や改正の必要があるという声がありました。私はこのような自衛隊員の声はもっともで、今回の災害といいこれまでの自衛隊の歴史を考えると、そろそろもう少し自己裁量権というか活動における行動の自由の幅を広げてもいいのではないかと思います。阪神大震災時の救援活動でも自衛隊は様々な制限を受け満足に活動できていないとも聞いていますし、災害救援活動に絞ってでももっと広い活動権限を持たせるべきでしょう。

 ここで少し話を広げますが、そもそもの話として日本は多くの組織においても「べき法」が中心となっております。元々の法体系がそうだったというべきか日本人の気質だったのかまではここでは議論しませんが、欧米と比べてどの組織においても自己裁量権が非常に少ないのが日本の特徴だと私は考えています。
 「べき法」のいいところはどんな人間だろうと組織だろうとみんなで一緒の歩調をとり合うため、日本経済で言えばJIS規格を始めとした共通の規格を作って従うことで日本ブランド一丸となって世界市場で大きな成功を収めることができました。その一方で個人に対して組織が強くなるところがあって際立った個人的才能が表に出辛く、また全体で責任を忌避する傾向が出てくるため、面倒くさいことや手間がかかる案件については今や日本人お得意の「先送り」が連発されるようになります。ちなみに私も日本人であるゆえか、さっさとすればいいのに今住んでる部屋の契約延長を先送りっぱなしなので来週にはまとめようかと考えてます。

 よく日本人は海外と比較して決断力や行動力に乏しいといわれることが多いですが、構造からして個人が決断をする場所が少ないのですからそれもそのはずです。しかも近年はオフィスのIT化が進んでいるので、伝票の入力から書類の書き方までなんでも決められたやり方通りに行う必要が以前より確実に強くなっております。
 そういう意味で自分が非常に腹立たしく感じているのは確か四年くらい前の新入社員に対してどっかの人材会社が、「今年の新入社員はマニュアル型で、何に関しても先輩にやり方を教わるよりもマニュアルを求める傾向がある」と言われましたが、聞いてる私の方からすると「当たり前だコラ!」と言いたくなるような言われ方でした。行動の仕方が細かいところまで何から何まで決まっているのだからマニュアルを求めようとするのはごく自然ですし、その上ちょっと行動にオリジナリティをつけようものなら激しくケチつけられるのでは正直やってられません。

 元々人の言うことをあまり聞かない性格のせいか私自身もいろいろこの点で苦労をしましたが、ある時に「お前の判断で行動しろ」と言われて手配を進めたら、結果はオーライなのにやり方が違うと激しく怒られたことがありました。まだ若かったせいもありますがこういう時は、「(上司が)やろうとするやり方を推量してその通り実行しろ」と言っているのだとようやく20歳になって気がつきました。

 私は何も「べき法」がなんでもかんでもよくないというつもりはありませんし日本人の気質にはあった価値観だとは思いますが、時と場合によってはこれがマイナスに働くこともあるだけに何でもかんでも「べき法」一色にするのではなく、必要なところは「べからず法」にして自己裁量権を強く持たせる場所も必要ではないかと思います。多分日本人には、「この範囲で自由にやっていいよ」と、制限をおいた指示が一番動きやすいと思うので、自衛隊を嚆矢としてこれからこの考えが広まってくれれば私としてはありがたいです。

 ちなみに私が自己裁量権を持たせてもらって一番楽しかったのは、ある統計資料を「見やすいように作って」と言われた時です。その時はExcelでやけに力の入った統計資料を作って、そこまでたいしたものではありませんでしたが。自動でデータ別分析ができるようにまで作って誉めてもらったのはいい思い出です。

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