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2013年10月10日木曜日

水木しげるのおすすめ伝記漫画

 私が漫画家の水木しげる氏の熱心なフリークであることはこのブログの定期読者なら言うまでもないですが、実は水木氏の最大人気作と言っていい「ゲゲゲの鬼太郎」の単行本はそれほど持っておりません。鬼太郎は鬼太郎で面白いのですが、私個人として一番にお勧めできるのは水木氏の時点である「水木しげる伝(上中下)」で、そのほかだと水木氏が壮年になってから手掛けた伝記漫画が気に入っており、今日はいくつか抜粋して紹介しようと思います。

 あまり知られてないと思いますが、水木氏は1990年前後からビッグゴールドなどに実在の人物に題材を取った伝記っぽい漫画を数多く仕立ててます。対象は日本国内にとどまらず世界中のいわゆる奇人たちで、自分も読むまで知らなかった人物が数多く取り上げられております。

 まずシリーズとしておすすめできるのは「神秘家列伝」というシリーズで、こちらは現在文庫版で4巻まで出ております。タイトルの通りに神秘家、つまりオカルト関連の歴史上の有名人物を取り上げており、1巻に出てくるスウェーデンボルグなどは「こんな面白い人物がいたのか」と素直にため息が出てくるほど面白い描かれ方がされています。このほかにもコナン・ドイルや井上円了などの人物が独特なタッチで紹介されており、あと個人的に印象深いのは大本教の実質的な創始者である出口王仁三郎について非常に綿密に描かれています。社会学やっている人間は是非読むべしです。

 その次におすすめできるというか、恐らく水木氏の一連の伝記作品の中で白眉ともいえるのが「猫楠」です。これはタイトルからはわかりませんが南方熊楠を題材に取った作品で、わかる人ならわかるでしょうが、とんでもない内容になっています
 何がとんでもないのかというと南方熊楠という人物が史実上でも色々とアレな人で、この人は粘菌学者で十数ヶ国語を自在に操り、現在も続く科学雑誌の最高権威「ネイチャー」の記事投稿本数が日本人として最も多いという、私が考えるに明治以降の人物としてはもっとも「天才」という言葉がぴったりくる人です。
 しかし、天才にはありがちですが一般人としての感覚が全くない人で、カビやダニを培養するため不潔な環境で生活し、酒飲むと大暴れし、ケンカになると全裸で自在に嘔吐したりなどと自分で書いてて何書いてるんだかわからなくなってきます。ただ、そういった破天荒ぶりが水木氏の漫画にあっているというか、多分水木氏も南方熊楠みたいなめちゃくちゃな人間が大好きなんだろうなと思えるくらいにすごく、生き生きと描かれています。

 最後にもう二冊紹介しますが、「東西奇ッ怪紳士録」という短編集があります。私はこの短編集に平賀源内が収録されていると聞いたので買って読んでみたのですが、平賀源内の話も面白かった一方、「国家をもて遊ぶ男」という短編の方に強く引き寄せられました。この短編には冒頭で、

「東条英機がいなくても(代わりがいるから)太平洋戦争は起こっただろう。しかしヒトラーがいなければ太平洋戦争は起こらなかったに違いない」

 という、山田風太郎の日記を引用しています。もうわかるでしょうが、この短編はヒトラーを題材に取っています。この短編ももちろん面白いのですが水木氏はこれ以前にも「劇画ヒットラー」という作品を書いていると知り、こちらも慌てて仕入れました(Amazonから)。
 ヒトラーの漫画というと手塚治虫の「アドルフに告ぐ」が有名ですが、こちらはヒトラー自身が実はユダヤ人だったなどと数多くのフィクションを盛り込んだ作品であるのに対し、水木氏の「劇画ヒットラー」は対照的に、徹頭徹尾当時にみられていた歴史的事実に即して描かれており、ミュンヘン一揆などについても丁寧に描いてあります。

 これらの伝記漫画は水木氏自身がかなりハチャメチャな人物であることからどれも独特の視点でもって描かれていることが多く、ほかの伝記漫画などと比べて読んでいる印象が全く違います。また取り上げられる人物もヒトラーはともかくとして他は本当にマイナーな人ばかりで、単純にストーリーを追っていくだけでも面白いのでこの場でも紹介しようと思い立ったわけです。 

   

2 件のコメント:

すいか さんのコメント...

どの本も面白そうです。前記事でコメントさせていただきましたが、現代の「標準化」の中にいて、昔の破天荒な人の話などを知ると、びっくりしたり元気が出たりするので、読んでみたいなぁ、と思います。以前、紹介されていた「レッド」も読み、連合赤軍の本も続けて読んじゃったりしています。「陽月秘話」は、私にとって「知らない世界への招待状」みたいなもので、視野がひろがります。ありがとうございます。

花園祐 さんのコメント...

 いつもコメントありがとうございます。
 破天荒となると「猫楠」は俄然お勧めです。南方熊楠は知名度はやや低いですが功績は抜群で、大正時代に熊野古道の開発計画が持ち上がった際に激しい反対運動をお越し、現在の世界遺産を守るに至ってますし、昭和天皇に進講した際も昭和天皇から「あと5分」と時間延長を申し出たとききます。
 それにしても「レッド」まで読まれているとは。あれは明らかに一般受けしない作品なだけに勧めてよかったのか悩むところでもあるのですが、ようやく次の新巻あたりから「総括」始まってきそうで楽しみです。