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2015年9月9日水曜日

少年ジャンプの年度別打ち切り本数

 このところネット上で、「少年ジャンプで新連載がまた打ち切り」、「ジャンプ終わった」などという文言を多数見かけます。以前ならともかく現在の私は週刊少年ジャンプを見ていないので今どのような状況なのかリアルタイムな情報は得られていないものの、少年漫画雑誌の王者である少年ジャンプがこのところ往時の勢いを失いつつあるという意見がどうやら少なからず出ているようです。
 正直に言って「日本はもう終わった」、「中国バブル終わった」みたいに投げるような言い方は好きではなく、終わったと抜かすんだったらちゃんとしたデータ持って来いよといつもイライラさせられるのですが、この少年ジャンプに関しても果たしてそのような印象論で言われているのか、それとも本当に人気というか勢いが落ちてきているのかが気になりました。この辺を誰かがはっきりさせる必要があるのではないかと思え、こうなったら本部以蔵ばりに「俺が守護る(まもる)しかねぇ」というような妙な使命感を感じたことから今日はちょこっとデータをこしらえて、少年ジャンプの現況を分析してみました。

<調査概要>
 少年ジャンプの「勢い」というものを比較するため、調査指標として年度別の「打ち切り本数」をカウントすることにしました。「テコ入れと打ち切りはジャンプの華」と言われるほど少年ジャンプでは人気の出ない漫画を容赦なく連載打ち切りにすることで有名ですが、これを逆手にとれば「打ち切り本数が多い=人気作が生まれてこない」という図式が成り立つのではないかと考えたからです。実際、ジャンプでは早ければ連載開始後2~3ヶ月でバンバン打ち切ってきますが、人気が出た作品に関しては連載期間も伸びて雑誌、単行本の売上げに貢献していくこととなるため、漫画雑誌としての勢いを測る指標として十分考慮できると思われます。
 なお雑誌発行部数も人気や勢いを測る上で重要な指標ではあるものの、少子化による購買層の人口変化や長期連載作品の影響などを排除することが出来ず、期間別の勢いを測る上では不適当と考え今回こちらは用いないこととしました。

<調査期間>
2000年から2015年

<調査指標>
1、新規連載開始本数
2、半年以内(25週)に打ち切られた連載本数
3、半年~1年以内(50週)に打ち切られた連載本数
※半年=25週、1年=50週という期間設定は統計をわかりやすくするためこういう設定にした

<調査データ>
連載
開始年
新連載
開始本数
打ち切り本数
備考
半年以内
1年以内
合計
打ち切り率
2000年 12 7 1 8 66.7%  
2001年 11 8 0 8 72.7%  
2002年 10 6 2 8 80.0%  
2003年 11 9 1 10 90.9% 武装錬金だけが1年以上持ちこたえた
2004年 11 4 2 6 54.5% DEATH NOTE、銀魂、D.Gray-man、家庭教師ヒットマンREBORN!が開始。当たり年
2005年 8 4 0 4 50.0%  
2006年 10 5 0 5 50.0% To LOVEるが連載開始
2007年 10 5 2 7 70.0% HAND'S -ハンズ-、神力契約者M&Y、重機人間ユンボルの3本が10週で打ち切り
2008年 13 7 1 8 61.5% トリコ、バクマン、ぬらりひょんの孫が開始。チャゲチャが史上最短の打ち切りに(8週)
2009年 14 8 2 10 71.4% 調査期間中、新連載本数が最も多い年
2010年 8 6 1 7 87.5% 調査期間中、新連載本数が最も少ない年(8本)。ただこの年の作品はほぼ全滅
2011年 10 5 3 8 80.0%  
2012年 12 3 5 8 66.7% 調査期間中、1年以内の打ち切り本数が唯一、半年以内の本数を上回った年
2013年 10 7 0 7 70.0% ハイキュー!!、斉木楠雄のΨ難、暗殺教室、食戟のソーマが連載開始
2014年 13 9 2 11 84.6% 調査期間中、最も打ち切り本数が多い年
2015年 10 5 0 5 50.0% 調査時点での統計。打ち切り本数はこれよりほぼ確実に増える見込み
平均
10.81 6.13 1.38 7.50 69.16%
\(゜ロ\)(/ロ゜)/

注1:連載開始1年以内に他誌へ移籍、短期集中連載、月1の企画連載作品はカウントせず
注2:打ち切り作品の本数はその作品が連載を開始した年にカウントしている。そのためたとえば2014年に打ち切られたとしても、その作品が2013年に連載を開始した物であれば2013年のカントとする

<データ補足>
 エクセルで作った図表を無理やりブログフォーマットに落としたのでやや見辛い表になったのが携帯叩き割りたいくらいに不満ですが、ひとまず内容は見れると思うのでこれで良しとします。

 さて今回私は連載打ち切りの基準として、半年以内、または一年以内に連載が終了した作品をカウントしました。一年以上続いた作品に関してはたとえ最終的に打ち切られたとしても一時的に読者の人気を勝ち取り、雑誌に貢献したと考えるためです。またカウントに当たってはなるべく調査目的の実態に近づけるため、注にも書いておりますが他誌への移籍作品や短期集中連載作品は除外してあります。他誌への移籍作品は連載を開始してすぐに移籍した「スティールボールラン」などは除外対象となるものの、「D.Gray-man」の様に少年ジャンプ本誌で人気を得ながら1年以上連載し続けてから移籍したものは通常通りのカウント対象としています。

<全体の傾向>
 そういうわけで早速見ていきますが、全体の打ち切り率が69.16%ということから、少年ジャンプでは新規の作品が1年以上連載を続ける可能性は30%強、つまり10本中3本しかないという計算になるわけで、やはり非常に厳しい競争原理が敷かれていると言えるでしょう。そして新規連載本数の平均は10.81本ということで、大体毎年10本強の作品が連載を開始しているってことになります。

<2004年の当たり年>
 それでは上から順に年度別のデータを見ていきますが、まず注目に値するのは2003年と2004年です。2003年は11本中10本が打ち切られるという超不作な年となりましたが、翌年の2004年は逆に「デスノート」を筆頭としてメガヒットといえるような人気作が一気に連載を開始しています。人気作が一挙に生まれ連載陣が安定したからか2004年~2006年の打ち切り率はどれも50%台という非常に低い数値で推移しており、この結果から2004年はこの15年間でジャンプにとって最大の当たり年であったと考えられます。

<2007年がターニングポイント>
 ただそんなプチ黄金期というか打ち切り率が低い水準でいたのも2006年までで、2007年からは打ち切り率が再び上昇傾向を見せます。特に2007年は備考欄にも書いてある通り、しょっぱなから「HAND'S -ハンズ-」、「神力契約者M&Y」、「重機人間ユンボル」の3本が2004年以来となるわずか10週での打ち切りを受けており、打ち切りまでの期間がそれ以前と比べ明らかに短縮されています。単純に作品の人気が出なかったのか、編集部の方針変更によるものなのかまではわかりませんが、翌2008年には「チャゲチャ」という作品が史上最速(現時点においても)の8週打ち切りになっていることから、やはり編集部で方針が変わったという方が可能性として大きいような気がします。

<2010年の全滅>
 2008年はそこそこヒット作が出た一方で新規連載作品が13本と急に増え、翌2009年も14本であったことから2年合わせて27本という新連載ラッシュとなっています。そして2010年ですが、なんとこの年は前2年と打って変わって新規連載本数が8本と急減した一方、このうち7本が打ち切り、しかもそのうち6本は半年以内で終わるという2003年を髣髴させるような超不作年になりました。しかもこの年に連載を開始して1年以上連載を続けられた「エニグマ」という作品は1年ちょっと経ったところで連載が打ち切られており、実質的にはこの年に限っては何一つ人気を安定させることが出来ず全滅だったという評価になります。

<連載期間が延びた2012年>
 全滅だった2010年に続いて2011年も打ち切り率が80%という高い数値となった影響からか、2012年ではちょっと妙な数字になりました。これも備考欄に書いていますが、通常なら半年以内で打ち切られる本数が圧倒的に多いのに対し、この年だけ半年から1年以内に打ち切られる本数が唯一上回った年となっております。
 勝手な推察ですが不作の年があまりにも続いたためか、恐らく編集部内で「すぐには切らずに半年は様子を見よう」という方針になったのではないかと思えます。もっともこの年にもそれほどヒット作は生まれておらず、翌2013年には打ち切り作品はすべて半年以内に切られるというハイペースに戻っていることから編集部が再考して方針を元に戻したのかもしれません。

<依然と高い打ち切り率>
 直近といえる2013年、2014年も相変わらず平均を上回る打ち切り率となっており、特に2014年においては新規連載本数が13本と多い一方で打ち切り本数が11本と調査期間中最多で、バンバン連載が開始されつつバンバン打ち切られる年だったと言えるでしょう。恐らく少年ジャンプを毎週購読している読者からしたら新連載が始まっては片っ端からすぐ切られていくように見えるでしょうから、冒頭の様に「ジャンプも終わったな」なんていう印象を覚えたのかもしれません。確かに1年ちょいで11本も連載が切られていれば先行きを不安視するのも無理ないでしょう。

<総評>
 2015年もすでに4分の3が過ぎておりますが、今年の新規連載本数は既に10本を数えており、残り3ヶ月で恐らくまだ増えることから2014年に引き続きハイペースな打ち切りラッシュがまだ続いていることになります。最初にも書いたように新規連載と打ち切りが多いということは安定した人気が得られる新作が出てきていないということと同義で、漫画雑誌の勢いという面では明らかに衰えていると言え、そういう意味では「終わった」とまでは言えないものの、一時期(2004年~2006年頃)に比べれは確かに今の少年ジャンプは勢いをなくしつつあると言えるのではないかと思えます。

 このほか今回の統計取ってて思ったこととしては、やはり当たり年というかヒット作というのはある年に集中して出てくる傾向があるような気がします。最も顕著だったのは2004年ですが、2008年もその後にテレビアニメ化にこぎつける作品が数本出ており、直近では2013年の作品が現在の連載陣で勢いがあるように感じます。
 それともう一つ、連載の打ち切り期間ですが、やはり一度ヒット作を出した漫画家に関しては完全な新人に比べてやや長い猶予期間を持たされる傾向がありました。具体的には藤崎竜氏、鈴木央氏、つの丸氏などの打ち切り作品はリアルタイムで私も読んでいましたが、明らかに第一話から「やばいなこれ」って思うくらいつまらない新作を出してきましたが、どれも半年以上は連載期間が持たされていました。

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