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2017年12月27日水曜日

漫画業界のデジタル化

 「エルフェンリート」で知られる漫画家の岡本倫氏が以前に巻末コメントかなんかで書いていた内容ですが、かつては同じ部屋に漫画家とアシスタントが集まってみんなで一緒にカリカリしながら漫画を描いていたが、現在はそれぞれの自宅でパソコンに向かって作業し、原稿データを交換しながら作業を進めるようになったとのことで、制作環境が大きく変わったということを書いていました。
 自分は出版業界関係者でもなければ漫画業界関係者でもないことから実態を見聞きしたわけでないものの、実際に最近の漫画業界におけるデジタル化はこのところ進んでいるようで、もはや作画も紙の上ではなくペンタブ使ってパソコン上で書くことが一般化しつつあるようです。そしてアシスタントの方も、ある程度これらデジタル作業に通じていないと全く仕事にならないそうです。

 以上のような話を聞いてまず思ったこととしては、カメラのデジタル化によって幽霊が心霊写真から淘汰されていったように、漫画業界でもデジタル化進行による淘汰が起こっているのだなということと、一番煽り食らっているのは画材屋かなということでした。

 こうした漫画制作現場のデジタル化とはまたすこし話が違うかもしれませんが、私がデジタル作画というものに初めて触れたというか衝撃を受けたのは、寺沢武一氏の「コブラ」でした。
 現実に寺沢武一氏はコンピューターグラフィックスを漫画に持ち込んだパイオニアで、時代的に非常に早い段階、私が知る限りだと90年代前半にはすでに取り込んで作品を作っていました。当時私はまだちっちゃい子供でしたが、本屋に並んだコブラの表紙はまるでアニメ画像の写真のようで非常に大きな衝撃を受け、中身を読むことこそなかったもののこの作品名は小学生の時点で覚えてしまうほどのインパクトがありました。

 その寺沢氏以降、パソコンが一般家庭に普及するのに伴ってCGを使ったイラストを公開する人もだんだんと増えていきましたが、真の意味での漫画のデジタル作画を実現させた人物ともなれば「GANTZ」の奥裕哉氏を置いてほかにいないでしょう。
 奥氏はデビュー作の「HEN」の時点で大ヒットを飛ばした作家でしたが、その次の作品の「ゼロワン」にてCGを使ったデジタル作画環境を本格的に整えていきます。なんでも奥氏はこの作品を制作するためにコンピューター導入やスタッフ育成に多額の投資を行い、なんとあれだけ大ヒットした「HEN」で稼いだ資産をほぼ全部使い果たしたとのことです。もし奥氏にインタビューする機会が得られるなら、一体何故資産を使い果たしてまでもデジタル作画環境を作ろうとしたのか、その執念について詳しく聞いてみたいものです。

 そうまでして制作に取り組まれた「ゼロワン」ですが、現時点で見てもその技術の高さや画力には圧倒されるレベルの作品だと思えます。作品内容自体が3D格闘ゲームに情熱を注ぐ少年の物語なだけあってそのデジタル作画との相性は抜群で、奥氏の元々の写実的な画風と相まって読んだときには強い感動を覚えたのを今でも覚えています。ただ、制作途中で資金が枯渇したとのことで作品は途中で打ち切りみたいな感じで唐突に終了しており、一個作品として見るならばその完成度は低いと言わざるを得ません。

 そんな「ゼロワン」の次に満を持して登場したのが、奥氏の代表作でもあり現時点でもデジタル作画された漫画としては恐らく最高傑作と言える「GANTZ」でした。こちら連載初期からほぼリアルタイムで私も読み続けてきましたが、唯一無二と言っていいその画風はもとより、衝撃的なまでに激しい暴力描写と異彩放つストーリー内容には非常に興奮して読んでいました。

 なお暴力描写という観点で見たら、現時点でもこの「GANTZ」こそが漫画史上最大レベルではないかと私は思います。というのもデフォル化されたキャラクターが手足切り落とされたり頭吹っ飛ばされたりするのと違い、先ほどにも書いたように奥氏の画風は非常に写実的であり(女性キャラの体格も写実的かと言われたら回答に困りますが)、また技術的に更なる成熟度を増したデジタル作画によって背景などの描写がほぼ現実そのままなレベルにまで高められており、漫画でありながら異常なくらいの現実感を醸しているからです。
 そんな現実感あふれる絵で登場キャラクターが片っ端から老若男女主役脇役問わず手足ねじ切られたり、体のあちこち吹っ飛ばされたりするもんだから、最初読んだときは下手なホラー漫画よりずっと怖く、同時期に出ていた「殺し屋イチ」なんてまだかわいかったなんてリアルに思ってました。なお「GANTZ」の中国語タイトルは「殺戮都市」で、割と内容に合ったネーミングだと思います。

 「GANTZ」はその最終回について賛否両論、どっちかというと否定論の方が大きかったですが、私はああいう最終回もアリだと評価しており、なによりもそのデジタル作画による驚異的な技術力は一漫画作品として見逃すことのできない功績だと見ていることから、2000年以降に完結した漫画作品から最高傑作を挙げるとしたらこの「GANTZ」か、弐瓶勉氏の「シドニアの騎士」のどちらかかだと考えています。
 ただ残念なことに、「GANTZ」の登場以降に奥氏のフォロワーと呼べるような高次元のデジタル作画を手掛ける漫画家は、私が知らないだけかもしれませんが見られないということです。もっとも奥氏のように資産使い果たすくらいの執念がなければあんなのできないでしょうし、実際にデジタル作画環境が整った後も奥氏はヘリコプターをチャーターして空撮したりするなど激しい投資を続けていることから、並の作家では実現できないだけなのかもしれませんが。

 なおフォロワーが出てこないという意味では、私がもう一つの最高傑作と考える「シドニアの騎士」を描いた弐瓶勉氏も、諌山創氏のようにファンだという人はいてもその画風や作品傾向を受け継ぐ作家を見ることはありません。弐瓶氏はまさに奥氏の真逆というか、非現実的と言えるほどに巨大な人工物を描いた背景が最大の特徴で、あの書き込みや構成は真似しようと思う人の方がおかしいレベルですからそれも仕方ないかもしれません。逆に見れば、奥氏も弐瓶氏もフォロワーが出てこないほど唯一無二の特徴を持っていると言えるでしょう。

  おまけ1
 弐瓶氏が招待先のオーストリアのコスプレ会に行ったところ、同行した担当編集はあるコスプレイヤーを見て「すげぇ、ガンツだ!」と言ったそうですが、この時に弐瓶氏は、(ガンツじゃないよ、サナカンだよ)と、自分の作品のキャラのコスプレだとは言えなかったそうです。

  おまけ2
 学生時代にガンツについて友人と話していた際に友人が、「っていうかこの作品、主役とか関係なしにガンガン死ぬけどレイカとか死んだらどうなるかな?」というので、「レイカが死ぬなんてありえない、っていうか考えたくない。もしそうなったら読むのやめる!」と当時の私は答えましたが、案の定レイカはその後死にました。しかも二回も。

  おまけ3
 ガンツにおいて主人公に次ぐ最重要キャラクターの西丈一郎について、ある日偶然、意図せず彼のモデルとなった人物の写真を目撃することがあり、そのあまりの容貌の近さに「ひぃっ」と妙な悲鳴を本当に上げました。「HEN」の時点でも同性愛をテーマにするなどタブー知らずな作者ですが、ここまで似せるのかと本気でぞっとしました。

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